パネルディスカッションのモデレーターを依頼されて準備したこと全て
ご縁あって、こちらのイベントでパネルディスカッションのモデレーターをしてきました。
これまでパネリストとしての登壇経験はありましたがモデレーターとしてはほとんどありません。さらに訳あって依頼されたのが本番当日の2日前だったためかなりドタバタで準備をしました。
今回の記事ではモデレーターしてどんな準備をしたか、緊張対策のためにやったことなどについて紹介します。
トーク内容については後日logmiさんにて記事にしていただけるとのことだったので、この記事では触れません。
まずモデレーターについてググった
まずやったことはモデレーターについて参考になりそうな記事を片っ端から調べました。
急遽明日のイベントのモデレータをやることになったのでモデレートの技術について調べてたんだけど2012年くらいの記事しかでてこない。モデレータのみなさん記事かいてください狙い目ですよ。
— 香月雄介/ペライチ開発責任者 (@katsukii) 2018年8月28日
思わずつぶやいた通り、モデレーターについての記事自体がそんなに多くありませんでした。ただその中でもこちらの記事は2012年と古い記事ですが、とても具体的で参考になる内容だったので、準備する上で何度も読ませていただきました。
登壇者についてもググった
モデレーターについての調査と並行してやったのが、パネリストの調査です。準備全体の中でたぶんここに一番時間を使いました。
パネルディスカッションの内容を濃いものにするためには、パネリストの話に対してモデレーターが突っ込んだり深掘ったり疑問をぶつけたりしなければなりません。そのためには大前提としてパネリストの話す内容が瞬時に理解できる必要があります。
ディスカッション中にモデレータが会話の流れを止めてしまうことを避けるためにも登壇者の予習はマストでしておくべきだと考えます。
以下について時間が許す限り調査してEvernoteにまとめました。
- インタビュー記事
- Twitterでの発言
- 過去の登壇資料
- 所属企業、プロダクトの情報
特に今回は有名サービスのCTOの方々だったのでインターネット上から沢山の情報を得ることができました。
以下、調べる上で特に意識したの3つの視点について記述します。調べた内容はA4用紙1枚の資料にまとめ、当日参照できるよう手元に置いておきます。
1. 登壇者の信念を集める
信念というと言葉が強めですが、インタビュー記事などで「◯◯だと思います」といったオピニオンがあればそれを信念と呼んでいます。信念はバックグラウンドにWHYが隠れているので、本番中に深掘ることで深みのある話が聞ける可能性が高まります。
また、登壇者同士で相反する信念がある場合、後述する「対比」でその部分について聞くことでディスカッションにつなげることもできます。
2. 登壇者の得意領域を集める
得意領域というのはその人がインタビューなどで繰り返し喋っているような内容のことです。そこを深掘ることで独自性の高い踏み込んだ話を聞ける可能性が高まります。
3. 登壇者同士対比できそうなことを集める
対比というのは例えば以下のようなことです。
- プロダクトはtoB向けかtoC向けか
- 堅い業種かそうでないか
- CTOはVPoEタイプかテックリードタイプか
- CTOの見ているスコープの広さの違い、役割、現場との距離etc...
これらを調べておくことが本番中のディスカッションで生きてきます。例えば、「今の◯◯さんの話はプロダクトがtoC向けの場合だと思いますが、逆にtoB向けのサービスを展開されてる◯◯さんはいかがですか?」みたいな感じで対比することで話を深掘りやすくなります
主催者との事前打合せ
主催者との事前打合せでは、今回のパネルディスカッションのアジェンダを決めます。(以下の画像は本番で利用したスライドです。)
決める際のポイントとなるのが、主催者の目的と参加者の満足度です。
- 主催者としての今回のパネルディスカッションの成功の定義はなにか
- 参加者はどんな人で何を求めて来るのか
についてヒアリングをしつつ、主催者の目的を達成しつつ参加者満足度の高いものにするという視点でディスカッションテーマを決定します。
特に「自分が参加者だったらどんな話が聞きたいか」という視点が考えやすいと思います。
アジェンダ以外では、当日の段取り、タイムキーピングなどについても確認しておきます。
進行表を作る
主催者との打合せで当日の流れとアジェンダが決まったら、スプレッドシートで進行表を作成します。これは当日の流れをシミュレーションするための自分の練習用のものです。
作るものはシンプルでよくて、アジェンダを縦に箇条書きに並べ、その右側に「アジェンダの振り方」「深掘りたいこと」の列をつくり、上述した登壇者の調査で調べたことをもとに内容を記入しておきます。
- アジェンダの振り方
- そのアジェンダを誰に何と言って振るかについて記入します。
- 深掘りたいこと
- そのアジェンダに関して登壇者の持つ信念や、得意領域、対比する相手について記入します。
またアジェンダ同士を矢印で結んで、その横に次のアジェンダに移るときの「口上」を記載しておきます。
シミュレーションする
進行表をベースに練習する
上記で作成した進行表をベースにシミュレーションをします。
それぞれのアジェンダだけを見て「アジェンダの振り方」「深掘りたいこと」をパっと想起できるよう記憶の強化をしておきます。
動画で雰囲気をイメージする
脳内だけでシミュレーションしてると、パネルディスカッション自体の雰囲気がどんな感じか分からなくなってくるので動画で雰囲気を確認しておきます。
パネルディスカッションでググってでてきた動画で比較的明るい雰囲気の動画を選んでモデレーターの様子を観察するととてもいいイメージトレーニングになります。
登壇者顔合わせ
いよいよ当日。本番30分前に登壇者との顔合わせをします。
ここでそれぞれのアジェンダに対してどのパネリストから面白い話が聞けそうかについてヒアリングします。
「このアジェンダは◯◯さんなにか話せるネタ持ってますか?」という感じで直接確認して事前に作っておいた進行表にメモしておきます。
ここでおすすめしたいのが、各パネリスト、特に初対面のパネリストとはしっかり会話をしておくことです。
どんな感じの人なのか、コミュニケーションするときの雰囲気などをある程度つかんでおくことで、本番中に心の余裕ができます。
本番
いよいよ本番です。壇上に上がってからの流れとしては以下の形が一般的かと思います。
- イベント全体の司会者からの紹介
- モデレーターの挨拶
- パネリストの自己紹介
- アジェンダに入る
モデレーターの挨拶については一言だけ「本日モデレーターとして進行を務めさせていただきます。株式会社ペライチで開発責任者をしています、香月と申します。よろしくお願いします。」くらいでいいかと思います。そのあとパネリスト一人ずつ、簡単な経歴と現在の仕事について自己紹介をしてもらいます。
自己紹介のときは、それぞれの所属と名前がわかるスライドを出しておくとわかりやすくていいです。
そのあとアジェンダに入るわけですが、その前に今回やってよかったと思ったのが会場アンケートです。「エンジニアの人〜?」「スタートアップの人〜?」という質問で挙手してもらって会場の属性確認をするのです。
これによってどんな属性の人が来ているのかパネリストが知ることができるので、よりオーディエンスが興味のある話をしてもらいやすくなります。
あと、その流れでアイスブレイクもできます。ムダに「朝ごはん食べてきた人〜?」という質問を入れてみたら全体的に笑ってくれて空気がほぐれたように感じました。おすすめです。
本番中のモデレーターの頭の中
さて、アジェンダに入ってからはモデレーターは頭の中で主に以下の3つのことを考えなければなりません。
- アジェンダの振り方、深掘り方
- 次にどのアジェンダを話すか
- 時間配分
1. アジェンダの振り方、深掘り方
アジェンダの振り方
まずアジェンダの振り方についてですが、コツはそのテーマを得意とする人に名指しで振ることです。例えばセキュリティについてであれば「FOLIOさんは金融系のサービスなので脆弱性やセキュリティには特に気を配ってると思いますが特に取り組んでいることはありますか?」みたいな感じです。
全体に対して抽象的な振り方をしてしまうと、一人ずつ広く浅く意見を述べるような形になってしまい深掘りがしづらくなるためです。
話の深掘り方
アジェンダを振って「WHAT(何をやっているか)」が聞き出せたら、「HOW(どうやっているか)」「WHY(なぜやっているか)」について深掘っていきます。
一例ですが「うちの会社でも似たような取り組みをしてますが、こういうところを課題に感じています。その点どう対応されてますか?」(HOWの深掘り)といった感じで、モデレーター自身の視点で疑問やツッコミを投げかけていきます。
注意しなければならないこととして、深掘れば深掘るほど一人のパネリストが喋る時間が長くなって時間を圧迫していきます。そのため適度に喋ってもらったら事前準備の「登壇者の調査」にて調査した「対比」を使って他の人にも話を振ります。
このようにしてて、「アジェンダを振る→深掘る→他の人に振る/対比する→次のアジェンダに移る」という流れでまわしていきます。
2. 次にどのアジェンダを話すか
本番中はモデレーターは終始パネリストと会話し続けなければならないため、「次にどのテーマについて話そうかな〜」なんてじっくり考える暇はありません。口では会話しながら、頭の中では全体の流れを整理しておく必要があります。
僕の場合は慣れてない中でのぶっつけ本番で上記をこなす自信がなかったので、事前にシミュレーションしておくことで対処しました。基本的に本番中ディスカッション全体の流れをコントロールすることは不可能に近いですが、アジェンダベースでこの話のあとはこれが振りやすいという個別の流れについては想定することは可能です。
準備段階で作成した進行表をベースにシミュレーションしておくことでよりスムーズな流れを作れます。
イケてないのが、「そろそろお時間がアレなので、次のアジェンダに移りたいと思います」と話の流れを切って進めることです。(僕は今回これをやってしまいましたが。。)
3. 時間配分
今回のパネルディスカッションは全体で40分でしたが、結果的には3つか4つくらいのアジェンダで終了しました。つまり、だいたい1つのアジェンダで10〜15分(パネリスト1人につき3〜5分)くらいの時間を使ったことになります。正直全然時間が足りなくて焦りました。
なので上記の通り全体の時間とパネリストの人数から逆算して事前にアジェンダを組むことが大事になります。ただしどんな話の流れになるかわからないのでアジェンダ自体は多めに用意しておく事をおすすめします。
また、本番中に残り時間がわかるようにしておくことも重要です。壇上から見える位置に時計はあるかどうか、残り時間の合図を出してくれる人はいるかどうかは事前打合せでかならず確認しておく必要があります。最悪自分の時計でタイムキーピングできるようにしておきましょう。
おまけ: コンディション調整について
最後に、本番に向けたコンディション調整について書きたいと思います。
睡眠
本番前日は準備が不十分だと感じても睡眠時間を優先します。睡眠不足は当日緊張を増長させることにつながるからです。
夜更かしはその前日までに済ませておきます。
食事と水分補給
本番直前に消化のよくないものを食べると血液が胃や十二指腸の方にいくため脳の働きが悪くなります。逆に空腹すぎるのも集中力の妨げになるためNGです。
なので、本番前1時間前くらいに手軽に摂取できて胃に負担がかからない軽食(バナナとかウィダーインゼリー的なやつ等)をとることをおすすめします。僕は会社に常備してあるプロテインを飲んでから会場に向かいました。水分補給については30分前くらいまでに済ませておきます。
コーヒーを控える
コーヒー(カフェイン)は交感神経を優位にし脳を覚醒させる作用があり緊張を促進させるため、当日は控えた方がいい飲み物です。僕も依頼を受けた本番2日前からコーヒー断ちをしてました。
しかし思わぬ事態が発生。コーヒーを毎日結構な量飲んでるせいで当日になって離脱症状による頭痛と眠気に襲われてしまったのです。
慌ててコーヒーを一口だけ口に入れたら予想以上にスッキリして難を逃れました。日常的にコーヒーを飲んでいる人がカフェイン断ちする場合は1週間くらいかけて徐々に減らすべきだと学びました。
しかしカフェインって麻薬ですね。。
自意識をなくす
半分精神論のような話ですが、僕は緊張の原因は自意識にあると考えています。「自分が恥をかきたくない」「失敗して自分の評価を下げたくない」と思っている限り緊張します。
逆に相手のニーズを満たすことだけに意識が集中できていれば緊張している暇なんてないはずです。
じゃあ具体的に何をするかというと、今回のパネルディスカッションの目的はなにか、そのためにすべきこと、意識すべきことなどを白紙のA4用紙に1分間で思いつく限り書き出します。これを10セットくらい繰り返します。書き出すことにより意識のベクトルを内側から外側に向けて上げることで緊張を和らげることができます。
ちなみにこれは「ゼロ秒思考」という思考のトレーニング方法で、上記のシチュエーション以外にも一人でアイデアを発散したいときなどに使えるのでおすすめです。
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まとめ
以下、準備でやったことをまとめます。
- モデレーターについてググる
- 登壇者についてググる
- 登壇者の信念を集める
- 登壇者の得意領域を集める
- 登壇者同士対比できそうなことを集める
- 主催者との事前打合せ
- アジェンダを決める
- 主催者の目的はなにか、参加者はどんな話を聞きたいか
- 当日の段取り、タイムキーピングも確認しておく
- アジェンダを決める
- 進行表をつくる
- アジェンダを箇条書き
- アジェンダの振り方
- 深掘りたいこと
- シミュレーションする
- 進行表をベースに想起
- 動画でイメトレ
- 登壇者顔合わせ
- 持ちネタのヒアリング
- 初対面のパネリストとは会話を
終わりに
長々と書きましたが、以上がパネルディスカッションのモデレーターとして今回準備したことの全てです。今回慣れないモデレーターに挑戦してみて実感したのは、パネルディスカッションのモデレーターにはすごく高度なスキルが求められるということです。パネリストとはまた全然別の筋肉が必要だなと思いました。
準備から本番までとても濃密な時間でとても多くのことを学ぶことができました。また次の機会に繋げられるように沢山学んでより進化していきたいと思います。
お声掛けいただいたPlug and Play矢澤さんはじめ関係者の皆様、パネリストの御三方、拙い進行にも関わらず終始和やかな空気で聞いてくださった参加者の皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました!
追記:
logmiさんに記事にしていただきました!